Skrillexが新作EP『Kora』をサプライズでリリースした。
事前の告知やプロモーションは一切なく、突如としてストリーミングサービスに3曲が追加されるという発表形式は、近年のSkrillexが繰り返し行ってきたスタイルでもある。本作は全3曲構成。2025年以降、メジャーレーベルから距離を取りつつ、アルバムやEPを高い頻度で発表し続けているSkrillexにとって、2026年最初の作品となる。
そしてその2026年の幕開けは、意外にも“クラブを揺らす新曲”という先入観を良い意味で裏切るものとなった。『Kora』は明確なドロップやピークタイムを意識した展開を意図的に排した、アンビエント/エクスペリメンタル色の強いEPで、ダブステップから近年のUKベース、テクノまで、フロアを席巻してきた彼のキャリアを踏まえると対照的なアプローチが取られている。そこにあるのはクラブミュージックという枠を超えて、音の質感や空間の流れそのものを設計する野心的な試みだ。全体を通してキックは控えめで、リズムはフロアを強く動かすためというより、音楽の中に留まるためのガイドとして機能。ヘッドフォンでのリスニングや深夜帯の静かな時間にこそ真価を発揮する没入型のサウンドが広がっている。
オープニングを飾る「Yo Yan」はSacred Familyとの共作で、歪んだシンセや低域のうねりに、アコースティックギターを思わせる柔らかな音色が重なり、電子音楽とオーガニックな響きが自然に溶け合う独特の空気感を生み出している。
続く「Someone Said」では、Varg²™、Whitearmor、Eurohead、swedmæといった独自の実験性を持つ個性的なプロデューサーたちが名を連ね、ディストーションの効いたテクスチャや細かく刻まれるアルペジオ、ノイズの揺らぎが複雑に絡み合う。グルーヴよりも緊張感が曲全体を支配し、音の展開というより、音響空間そのものが変形していくような感覚を与える一曲だ。
タイトル曲「Kora」ではSiiickbrainのボーカルがフィーチャーされ、グリッチや断片的なメロディの隙間から人の声が浮かび上がることで、EP全体に人間味のある体温と感情が加えられている。
今回のリリースが完全なサプライズ形式で行われたことも象徴的で、説明や文脈を先に与えるのではなく、まず音だけを差し出し、その受け取り方をリスナーに委ねるという姿勢は、近年のSkrillexの制作スタンスをそのまま反映しているとも言えるだろう。
本作に参加しているアーティストの顔ぶれも重要だ。Varg²™はスウェーデン出身のプロデューサーで、クラブミュージックとノイズ、アートの境界線を横断する存在として知られており、2024年にはBladeeやSkrillexとの共作を含むアルバム『Nordic Flora Series, Pt. 6: Outlaw Music』を発表し評価を高めてきた。Skrillexとは2025年のアルバム『F*CK U SKRILLEX YOU THINK UR ANDY WARHOL BUT UR NOT!! <3』で複数曲にわたってコラボレーションを行い、さらに昨年末にリリースされた「voltage (see you again)」にも参加するなど、近年のSkrillex作品を語るうえで欠かせない重要コラボレーターとなっている。swedmæやEuroheadも同様にこれらの作品に参加しており、現在のSkrillexサウンドを形作るうえで要となる存在だ。
Whitearmorも同じくスウェーデンを拠点に、Yung LeanやBladeeを中心とするDrain Gang周辺の音響設計を担ってきた重要人物であり、2024〜25年にかけても数多くのプロダクションワークを通じて、その影響力をさらに広げている。Skrillexとは『F*CK U〜』の「AZASU」で共演済み。
Siiickbrainはボーカリスト兼プロデューサーとして2024〜25年にかけて実験的なリリースを重ね、Skrillexの2023年アルバム『Quest For Fire』収録曲「TOO BIZARRE (juked)」にも参加。インターネット世代の感性を体現する存在として注目を集めている。
こうした顔ぶれが示す通り、『Kora』は単なるフィーチャリング集ではなく、Skrillexが現在強く共鳴しているシーンや感性を集約したコラボレーション作品であり、同時に彼自身の興味関心を反映したスケッチ集のような側面も持っている。2025年にはアルバム『F*CK U〜』がグラミー賞ダンス/エレクトロニック・アルバム部門にノミネートされるなど評価の軸をさらに広げたSkrillexだが、2026年に入ってもなお具体的な次回作は未定であり、サプライズを含めその動向には引き続き注目が集まっている。『Kora』は、Skrillexがいまどこに向かい、次にどの方向へ進もうとしているのかを示す、重要な一作と言えるだろう。