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批判DMにsaluteが示した答え─『fabric』新曲“love has come again”で語るDJの信念

salute - love has come again

マンチェスターを拠点に活動するプロデューサー/DJ、salute(サルート) が新曲 “love has come again” をリリースした。



今作は前作 “double luxury” に続き、ロンドンの名門クラブ「fabric」が手掛ける伝統的なミックスシリーズ”fabric presents”の最新作にも収録されたオリジナル楽曲。硬質なキックと軽快なハイハットが疾走感を演出するハウシーなトラックで、彼らしいエモーショナルなシンセパッドやループするメロディ、さらに中盤のブレイクから登場するソウルフルなサウンドが深い情緒をもたらす。salute がかねてから愛してやまない「ソウルフルなループ」と「サンプルベースのハウス」への嗜好が色濃く反映され、華やかさと濃密さを併せ持つフロア仕様のサウンドに仕上がっている。本人も「自分のサウンドを三語で表すなら“Glossy, Dramatic, Dense(光沢感、劇的、濃密)”」と語るように、その特徴はこの楽曲においても端的に現れている。

salute、UK名門クラブ『fabric』シリーズのために書き下ろした新曲「double luxury」を先行リリース



この楽曲が象徴的に使われているのが今回の”fabric presents”だ。本人自身も「これはひとつのキャリアの節目」と語っている。saluteは「十代の頃、fabricliveのミックスを聴いてさまざまなダンス音楽のサブジャンルを学んだ。だからこのシリーズに自分が貢献できることは本当に名誉だ」と振り返る。今回のミックスには “love has come again”と“double luxury”の2曲のオリジナル新曲を収録し、その間を縫うように Kerri ChandlerやBen Sims、DJ Tonkaらのトラックを配置。多彩なスタイルを織り交ぜながらも、一つの物語としてまとめ上げた。本人は「自分の音楽的嗜好を1時間にまとめるのは本当に難しい」とも語っており、その挑戦心が本作に込められている。クラブのカオスと高揚を凝縮した25曲をつなぎ合わせることで、彼のDJとしての力量が強く刻まれた作品に仕上がっている。



リリースを祝う場として選ばれたのは、発売日と同じ10月10日に行われたイベント”Infinite Passion”。



この日は、saluteにとって初めてのfabric room 1(メインルーム)でのプレイでもあり、本人はインスタグラムに「ロンドン、本当にありがとう。初めてfabricでプレイしたけど、素晴らしかった。ブースはとても心地よくて、隠れているような感覚が最高だった。僕のお気に入りのブースは、自分が見えない存在みたいに感じられる場所(少なくとも“見られている”と感じない場所)なんだ」と投稿。観客の熱狂を浴びながらも、彼が大切にしているのは“視線を集めること”ではなく、“音楽に没入できる環境”であることが示されている。



一方で、この夜はファンとの摩擦もあった。ストーリーズには「君の大ファンで今年4回見に行ったけど、今夜のセットは正直ひどかった。返金してほしい。君の音楽は素晴らしいので、自分の曲をもっとプレイしてほしかった」という辛辣なDMが貼られていた。それに対して salute は「すべての人を満足させることはできないし、それでいい」と前置きしつつ、毅然としたスタンスを示した。「でも一つだけ言わせてほしい。Infinite Passionの目的は、毎回saluteのベストヒットをかけることじゃない。1年間ずっとTRUE VISIONというオーディオビジュアル・セットでそれをやってきたけど、それは結局、自分がDJとして誰なのかを示すものではなかった。このイベントは、新しい音楽を試す場であって、自分がメインアクトになるためじゃない。他のDJに焦点を当て、よりディープなプレイをし、自分の一番人気の曲は脇に置いている。それがあなたの求めるものじゃないなら、このパーティはあなたのためのものじゃないかもしれない」と語った。


この言葉からも分かるように、彼が立ち上げた”Infinite Passion”は単なるクラブイベントではない。そこには「スマホ禁止・ダンスのみ」というルールがあり、観客は記録ではなく体験に没入することを求められる。さらに、salute自身のヒット曲を中心としたDJセットを避け、むしろ新しい音楽を試す実験的な場として位置づけられている。そして彼自身が常にヘッドライナーであることを拒み、他のDJにスポットを当てることでシーン全体を広げていこうとする姿勢も明らかだ。つまり彼にとって馴染みのある盛り上がりよりも、DJとしての本質に沿って、まだ出会ったことのない音や深いプレイを楽しむための空間なのである。


今後は、年末まで続くツアーの中で自身が立ち上げたクラブナイト”Infinite Passion”をイギリスとアメリカで広げ、さらにヨーロッパ展開も視野に入れている。また同時に”TRUE VISION”セットの終わりも予告している。加えて、来年には新しいEPのリリースが予定されており、その先には次なるアルバムも構想中だそうだ。本人は「(大ヒットした2ndアルバム)『TRUE MAGIC』を経て、もう一度クラブの世界に焦点を戻したい」と語り、その姿勢は今作に込められたダンスフロア志向からも明確に伝わってくる。



クラブミュージックはいつだって「観客の期待」と「DJの信念」の狭間で揺れている。今作 “love has come again” は、そのリスナーの耳を掴む華やかで濃密なサウンドの魅力とともに、DJという存在を再定義しようとするsaluteの信念を表した一曲とも言えるだろう。