Harry Styles, photo by Stella Blackmon
NEW RELEASE

Harry Styles、4thアルバム先行曲「Aperture」発表。観客としての体験をサウンドに反映した内省的なダンスミュージックがテーマ

Harry Styles - Aperture

Harry Stylesが新曲「Aperture (アパーチャー)」をリリースした。



今作は「年間最優秀アルバム賞」を含むグラミー賞3部門を受賞した『Harry’s House』以来、およそ約3年半ぶりの新曲であり、3月6日にリリース予定の4thアルバム『Kiss All the Time. Disco, Occasionally』からのリードシングルでもある。リリースに先駆けて10か国11都市で先行試聴イベントが行われ、日本でもタワレコ渋谷店に200人超のファンが押しかけ、大きな話題となった。

@hshq

Aperture in Tokyo for the very first time.

♬ original sound – HSHQ


ポップの最前線を走り続けてきたHarryが次の一手として選んだのは、「さらに大きく、さらに派手に」という明確なワールドワイド・ヒット路線の拡張ではない。自身の経験に即した感情と感覚を、インディーロックの質感とダンスミュージックの手法を取り込みながら、もう一度丁寧に組み直すことだった。

「Aperture」では、これまでの作品と比べても明確にダンスミュージックの手法が採用されている。だが近年のSNSやサブスクリプション配信で主流となった、フックに最短距離で飛び込む仕様ではない。さらにダンスミュージック視点で見ても、いわゆるピークタイムに向けて放たれたバンガーとも異なる。『Harry’s House』で聴かれたポップロック的な艶やかさは、ここでは泡立つように揺らぐ、ゆったりとしたシンセのフレーズと、柔らかく鼓動するミニマルな打ち込みビートへと置き換えられている。Harryの歌声が入るまでに約45秒を要し、そこから5分という尺を使って、ゴスペル・クワイアやアシッド・ベースのレイヤーを重ねながら、じわじわと熱を上げていく。耳と気持ちの温度を整えながら、静かに没入させてくる体験に近い。



タイトルの「Aperture」は写真用語で「絞り (レンズの開口部)」を指し、光をどれだけ取り込むかを調整するパーツだ。この曲ではそれが「心を少し開いて、不確実さを受け止める」比喩として使われている。未知を恐れて閉じるのではなく、分からない中でも心を開き、“光”=愛やつながりを招き入れるというメッセージを、開放感と不安を同時に含みつつ表現。歌詞面でも派手なフックで押し切るのではなく、短い言葉の反復と断片的なフレーズで、感情の温度を少しずつ変えていく作りになっている。

クラブで爆音を浴びる高揚感というより、夜明けの帰り道や部屋の照明を落とした時間帯に、気づけば何度もループしてしまう。そんな佇まいを持った曲に仕上がっている。この内省的なダンス感は、The xx、そしてそのサウンドの中核を担うJamie xxの作品群に加え、サイケ・ロックをモダンなフロア仕様へと更新し、Dua LipaやThe Weekndの作品にも関わってきたTame Impala、さらにコロナ禍以降の個人的な感覚を日記のように音へ落とし込み高い評価を得たFred again..の初期作品群にも通じる。




そしてこの曲を支えるもう一人の主役が、Kid Harpoon (キッド・ハープーン)だ。英国出身のソングライター/プロデューサーで、本名はThomas Hull (トーマス・ハル)。インディー・ポップの感性を土台にしつつ、歌をしっかり届ける“ポップの普遍性”へ落とし込む職人として、2000年代は自身名義でアーティスト活動を行いながら、その軸足をソングライティング/制作へ移行。2010年代にはUKインディー〜ポップ文脈でFlorence + the MachineやJessie Wareなどの作品でも名を上げた。いまやHarryの2019年アルバム『Fine Line』(「Watermelon Sugar」収録)から『Harry’s House』に至る成功を長く支えてきた共同制作者であり、さらにMiley Cyrus「Flowers」でのグローバルヒット/グラミー受賞でもさらなる注目を集めている。



そんな彼も、実はダンスミュージック視点でも興味深い経歴を持つ。昨年D.O.D.の最新バージョンでリバイバルヒットを果たしたCalvin Harris feat. Florence Welch「Sweet Nothing」の共作に名を連ね、Gryffinリミックスがクラシック化したYears & Years「Desire」にもソングライティングに参加。さらにSkrillexの2014年アルバム『Recess』にもフィーチャリング・ボーカルとして関わり、「Fire Away」で歌声を聴かせている。




さらに楽曲後半に登場し、楽曲の“祝祭感”や“カタルシス”を静かに、だが確かに押し上げるコーラスには、ロンドンを拠点にハウスのグルーヴを土台として、ゴスペル由来の厚いハーモニーを“クラブ仕様”に再構築してきたボーカル・コレクティブ=House Gospel Choir(ハウス・ゴスペル・クワイア)を起用している。ダンス文脈を理解したうえでの、説得力あるキャスティングと言える。


この明確な“方向転換”について、HarryはBBC Radio 1のGreg Jamesとのインタビューで経緯を明かしている。「Aperture」はアルバム制作の最後に完成したトラックだった。すでにアルバムの大半は仕上がっており、その多くが同じテーマを掘り下げていたという。制作終盤、いちばん自由で楽しく作れていたタイミングで生まれたのがこの曲で、Harryはそれを「完璧な小さなリボンみたいだった」と例え、「これでレコードが完成した」と確信したと語る。結果として「Aperture」は、アルバム全体が何を語ろうとしているのかを示す“方針声明 (mission statement)”になったという。



さらにサウンド面の参照点として、Harry本人はマドリッドでLCD Soundsystemのライブを観たときに「ステージ上で自分はこういう気持ちでいたい」と直感的に感じ、その高揚が自分の作っていた音楽の方向性とも一致していたことが、今回のインスピレーションになったという。


「Aperture」にはLCDやJamie xxを想起させる都会的なダンス感が漂う一方で、80年代にポスト・パンク〜アンビエント文脈の個性派として高い評価を得たThe Durutti Column (ザ・ドゥルッティ・コラム)も聴いていたと紹介していたのも象徴的だ。


中でも重要なのが、Harryがこの数年、演者ではなく“観客”としてフロアに身を置き直していた点だ。長年ツアーでステージに立ち続けてきたからこそ、あらためて群衆の中に入り、「なぜ音楽が人にとって特別なのか」「なぜこれほど気持ちいいのか」を身体で思い出す必要があったという。イタリアやベルリンなどを旅しながら、“暗いフロアで人と一緒に踊る”外に出る感覚が「Aperture」のサウンドを押し出した、とも語っている。さらにScott Millsの番組でも、ツアーとホテルの往復だけでは得られない「人間的な体験」を取り戻すことがアルバム全体の核になっていると説明した。こうしてポップスターの視点ではなく、フロアの一員として身体で捉え直した実感が、「Aperture」のダンス的な構造に反映されているのだろう。


そして、3月にリリースされるアルバム・タイトルは『Kiss All the Time. Disco, Occasionally』。直訳すれば「いつもキス。ディスコは時々」と、“Disco”の文字を掲げている。インタビューでは、収録曲の多くが「クラシックなポップのソングライティング」だとも語っており、「Aperture」のようなエレクトロ寄りの方向転換を打ち出しつつも、根底はあくまで“歌が立つ”ポップ作品になりそうだ。

一方で、そのダンス的なムードを補強するようなツアーのラインナップも発表された。


5月から12月にかけて行われる「Together, Together」ツアーはアムステルダムで幕を開け、ロンドンのウェンブリー・スタジアムでは6夜にわたる公演を行う。その後、サンパウロ、メキシコシティを経て、ニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンでは30夜連続公演が予定され、オーストラリアのメルボルンとシドニーで締めくくられる。サポートアクトにはShania Twain、Skye Newman、Jorja Smithに加え、スウェーデンのダンスポップ・アイコンRobyn、先にも挙げたJamie xx、そしてNY拠点で名門レーベルNinja Tuneからもリリースを重ね注目を集める新鋭インディ・ダンス・ユニットFcukersが名を連ねる。ダンス文脈を象徴する面々が揃うこの布陣が、今回のモードチェンジに説得力を与えている。




大きな成功の後に、フロアに降り立って再発見した感情を正直にぶつけ、あえて実験へ踏み込んだ「Aperture」。それは偶然にも、2020年代以降の内省的で個人的な感覚をダンスミュージックへ落とし込む潮流ともリンクした。「時々ディスコ」というフレーズが、アルバムの中でどこまでダンスの比重を増やしてくるのか。その答えを期待したい。

【最新リリース】
Harry Styles|ハリー・スタイルズ
新曲「Aperture」
2026年1月23日配信リリース
再生・購入はこちら


最新アルバム『Kiss All the Time. Disco, Occasionally.』
2026年3月6日リリース予定