オーストラリア出身のDJ/プロデューサー、Darby(ダービー)。ベースミュージックを軸に、UKガラージやブレイクビーツ、さらにはテクノの要素まで自在に取り込み、聴く者をダンスフロアの中心へと引き込む25歳の新鋭だ。その才能はSkrillexやDisclosureも注目するほどで、次世代クラブサウンドを切り拓く存在として、いま世界のベース/UKGシーンで大きな注目を集めている。そんな彼が今年7月、初めての日本ツアーを敢行。Beginning主催の東京公演をはじめ、名古屋(reproduct rewind)・福岡(Lit x IBIZA)を巡り、各地で熱狂的な反応を巻き起こした。
Darby @ CIRCUS TOKYO
“Darbyサウンド”の現在地とこれからを探るべく、EDMMAXX編集部を代表してTJOがインタビューを行った。
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・初来日で感じた日本のオーディエンスの熱量
TJO: 今回が初めての来日ですが、日本でのDJとオーディエンスの反応はいかがでしたか?
Darby: 本当に観客の多さに驚きました。福岡、名古屋、東京の3公演全てで想像以上の反応をもらいました。以前はたった5人の前でプレイしたこともあるくらいなんです。だから日本のいろんな場所で、自分のことを知ってくれている人がいるというだけで、とても特別で素晴らしい経験でした。
・一番印象に残ったのは「CIRCUS TOKYO」
TJO: 最も印象的だったパーティーは?
Darby: 東京ですね。というのも「CIRCUS」のことはずっと聞いていて、最近だとMPHがプレイしているのも見ましたし、たくさんの有名なアーティストがそこでプレイしてきたのを知っていました。だから自分があのクラブでプレイできるとわかった時は本当にワクワクしました。実際に会場に入った時も「ついにここに来たんだ」と強く感じました。海外の人にも有名なクラブなので、とても特別な体験でした。
・初めて聴くならこの1曲「Party」
TJO: あなたの音楽を初めて聴く人に、オススメしたい1曲は?
Darby: 間違いなく「Party」ですね。メロディックな側面とベースサウンドの両方が完璧に融合した曲です。ダンスミュージックやポップスを普段聴かない人、アンダーグラウンドなサウンドに馴染みのない人でも楽しめると思います。だからこそ僕の一番好きな曲なんです。
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TJO: 実際に「Party」をプレイした時の観客の反応は?
Darby: 最高でした。僕自身も一番プレイするのが好きな曲です。毎回カメラを構えて観客を撮っているのですが、それはこの曲が初めて、自分が書いた歌詞を観客が一緒に歌ってくれたからなんです。日本のいろんな場所で、自分の歌詞を歌ってもらえるなんて、この上なく特別な体験でしたし、本当にワクワクしました。
・新曲「Lose My Mind」に込めた挑戦
TJO: 新曲「Lose My Mind」は、ブレイクビーツを軸に、エネルギッシュかつ繊細なサウンドが印象的です。制作で特に意識したことや挑戦したポイントはありますか?
Darby: かなり“アメリカ的”なサウンドを意識したと思います。LA出身のStrobezと一緒に制作したのですが、ミックスダウンもとてもアグレッシブで、ドラムも強烈、すべての音を限界まで押し上げました。僕のUKやオーストラリアっぽい楽曲はもう少し軽くチルな感じになることが多いのですが、この曲はスピーカーから200%の音量で鳴らすことを目指しました。サウンドデザイン的には、スピーカーを壊さず、なおかつドラムがしっかり聴こえるようにしながら、できる限り歪んだ攻撃的なベースを作ることに挑戦しましたね。
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・日本で迎えた25歳の誕生日と“自分のサウンド”の確立
TJO: この来日中に25歳の誕生日を迎えられたそうですね。おめでとうございます! この1年をどのような年にしたいですか?
Darby: ありがとうございます!(笑)。25歳になると前頭前野が発達して、自分の行動や表現により意図的になる、とよく言われますよね。今年は本当の自分を理解して、それを正直に音楽で表現していきたいです。この10年間、いろんな人の影響を受けて様々なスタイルの楽曲を作ってきましたが、今はそれらすべてが「Darbyスタイル」「Darbyサウンド」にまとまってきた感覚があります。だからこそ、それをできる限り探求していきたいです。
・Skrillex、Flume、そしてFred again..
TJO: あなたのサウンドに最も影響を与えたアーティストを3組挙げるとしたら?
Darby: まずSkrillex、Flume、そしてFred again.. ですね。3人目は時々変わるんです。DisclosureだったりSammy Virjiだったり。ただ全体的に見て、Fred again..という人物そのものがとてもインスピレーションを与えてくれています。
TJO: Fred again.. のどんな部分に影響を受けていますか?
Darby: 彼は“人と人をつなげる力”を持っています。Skrillexはプロダクション・スキルで有名ですが、Fredは人柄そのものが大きな魅力です。どちらも自分にとって大きな影響を与える存在ですね。
TJO: この答えはDaniel Allanとも似ていますね。彼の場合はSkrillex、Flume、そしてAbove & Beyondを挙げていました。
Darby: 本当ですか?!僕やDaniel、そして多くのアーティストのスタイルは、この小さな影響のコミュニティから生まれていると思います。Danielとはよく一緒に遊んだり、セッションしたりしていますが、そういうアーティストを通じてすごく自然に共鳴できるんです。
・オーストラリアの最新シーンと、次に来るサウンド
TJO: 出身地であるオーストラリアのダンス・ミュージックのシーンは昔から盛んな印象ですが、今の盛り上がりについて、また特に熱いジャンルを教えてください。
Darby: オーストラリアのシーンはとても独特です。もともとはFlumeのようなアーティストを生んで、トラップやフューチャーベースが盛んでした。でも今はテクノがとても大きな流れで、特にメルボルンでは大人気です。Boiler Roomのイベントや象徴的なウェアハウス・パーティーもたくさんありますし、世界中からテクノやUKG、ハードグルーヴをやるアーティストがメルボルンに集まります。僕自身もそうしたレイブや本当のアンダーグラウンドなショーから強く影響を受けています。特に「ハードグルーヴ」というジャンル、これは打楽器的な要素が強いテクノなのですが、僕のスタイルにも大きく反映されていますし、今のメルボルンでも一番人気のジャンルです。
[Hard Groove Playlist]
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TJO: 今は世界的にUKGやスピードガラージが盛り上がっていますが、あなた自身がハマっているジャンルや、これから来そうなムーブメント/アーティストはいますか?
Darby: 今はジャンルがどんどん混ざり合っているので、僕自身もいろんなスタイルからインスピレーションを受けています。でも必ず挙げたいのはブラジルのコミュニティ、特にBaile Funk (バイレ・ファンキ)ですね。彼らはすごく前衛的で実験的な音楽を作っていて、これから大きな波を起こすと思います。それからJersey Club (ジャージ・クラブ)のシーンもいつも本当に楽しい曲を作っているのですが、必ずしも評価されていない。でも注目すべきだと思います。Baile Funkなら
KARAN! というアーティストをおすすめします。彼は最近Skrillexにもプレイされましたし、USのスタイルとブラジルのスタイルを融合させていて、今まさに多くの人の目に留まっています。ガラージ系では名前を挙げたい人が多すぎるけれど、最近よく聴いているのは
Tiaro というアーティストです。まだすごくアンダーグラウンドですが急速に伸びています。もう一人は
Jon Cass 。イギリスのアーティストで、僕は毎回のセットで彼の曲をかけています。まだそれほど知名度は高くありませんが、驚くほどのスピードで成長していて、近い将来大物になると期待しています。
KARAN!
Tiaro
Jon Cass
・「すべては継続に尽きる」ー諦めないことで掴んだブレイクスルー
TJO: 以前SNSで「すべては継続に尽きる」と言っていたのが印象的でした。制作やパフォーマンスで最も大切にしていること、また「継続」を強く感じたきっかけや、「諦めずに続けて良かった」と思えた瞬間があれば教えてください。
Darby: 音楽を始めて約10年になりますが、最初の7年間は誰も見てくれませんでした。曲を作っても誰も気にも止めてくれない。でも作曲自体が楽しかったからいいんです。ただ2022年に、自分が何を作りたいのか分からなくなって、誰からのサポートもなかった時期がありました。そこで諦める代わりに「自分自身の一番のファンになろう」と決めたんです。ネガティブになり過ぎたので、自分の音楽をポジティブに信じて、SNSでも発信して、「自分は特別なものを届けられる」と思うようにしました。すると結果が出始めたんです。自分が自信を持つことが先。そうしたら周りの人もついてきました。それ以来、キャリアには山も谷もあるけれど、自分自身が常に一番のファンでいる限り、完全に落ちることはないと分かりました。今は素晴らしい仲間やファンがいますが、当時いなかったときも自分でそうやって続けました。その気持ちは今でも絶対に失いたくない。僕にとって「継続」とはそういう意味です。
TJO: ブレイクスルーになった瞬間はどこだと思いますか?
Darby: TikTokで、自分の曲「Everything」を使ったコンテンツがバズった時です。 それまで1年以上TikTokを投稿しても100回再生とか、5回とか、せいぜい1000回くらい。でも突然ある投稿が10万、20万と再生されてSpotifyに人が流れてきました。そこからドミノ倒しのように、色んな人が連絡をくれたり、Disclosureがサポートしてくれたり、レーベルやイベントから声がかかるようになったんです。
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もう一つ大きかったのは、メルボルンで自分たちで開催したポップアップイベント「Blur」です。会場を借りて、自分たちで集客して、200人ほど来てくれて大盛況でした。自分の音楽で初めてちゃんとしたショーをやれて、あの瞬間に「自分はDJとして生きていきたい、音楽を生で届けたい」と心から思いました。
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・日本のファンへ
TJO: 最後に、日本のファンへメッセージをお願いします。
Darby: もっと日本語がうまく話せたらよかったんですが…(苦笑)。今回ショーに来てくれたり、サポートしてくれた皆さん、本当にありがとうございます。僕はただのオーストラリア出身の若者なのに、こんなにも多くの人が自分の音楽とつながってくれるのは、本当に驚きであり、最高の気持ちです。チームにも「できるだけ早くまた日本に戻りたい」と伝えていますし、そのために全力を尽くします。本当にありがとう。(日本語で)ありがとう。
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「常に自分自身が一番のファンでいること」。Darbyが語ったその言葉は、シーンの浮き沈みを超えて音楽を続けていくための強い信念そのものだ。25歳という節目を迎えた今、彼はさらなる進化を遂げ、オーストラリアから世界へと飛び立とうとしている。次に鳴り響くDarbyのサウンドが、クラブシーンにどんな新しい景色を描くのか。その瞬間を待ちわびずにはいられない。
Darby Official Site
https://linktr.ee/darbysounds