EDM黄金期から現在に至るまで、常にダンスミュージックシーンの最前線を走り続けるDJ/プロデューサー、Nicky Romero。
アーティストとしての世界的な活躍に加え、近年では次世代DJ/アーティストの発掘・育成にも積極的に取り組んでいる。
昨年には、エイベックスとNicky Romero主宰のレーベル「Protocol Recordings」がタッグを組み、新人発掘を目的としたプログラム『GIANTKILLERZ』を始動。 日本のシーンでも大きな注目を集めた。
このプログラムでは、Nicky自身がダンスミュージック制作のノウハウを直接伝授する“マスタークラス”も展開され、より実践的な学びの場として話題を呼んでいる。
今回EDM MAXXでは、2度目の開催を迎える『GIANTKILLERZ』presents MASTER CLASS & DEMO DROP、そして自身の音楽にかける想いについて、TJOとDJ YU-KIがNicky Romeroに独占インタビューを敢行。
ここでは、その言葉の一つひとつから浮かび上がる、“進化を止めない男”の真意、そして次世代に託した希望と情熱を紐解いていく。
Q1:『GIANTKILLERZ 2024』を通して2名のWINNERSが決定しましたが、率直にこの1年の取り組みを振り返ってみていかがでしたか?
Nicky Romero : 「昨年のマスタークラスでは、提出されたデモのクオリティがどれも本当に素晴らしく、プロデューサーとしての技術の高さを強く感じました。 プログレッシブ・ハウス、テック・ハウス、ベース・ハウスなど、ジャンルごとにそれぞれ高いスキルを発揮していて、ジャンルを問わずここまでの完成度を見せてくれることに驚かされました。 最終的にWINNERを選ばなければならないのは、本当に難しく、最後の最後まで悩み続け、WINNERを選択しました。 今年もまた、次世代のプロデューサーの皆さんの技術や可能性に出会えることを楽しみにしています」
Q2:もし過去の自分に、プロダクションについてひとつだけアドバイスできるとしたら、何を伝えたいですか?
Nicky Romero : 「若い頃の自分に何かひとつ伝えられるとしたら、「まずは結果じゃなくて“プロセス”に集中してくれ」と言いたいです。 当時の自分は、周りの作曲家たちと自分を比べては、「彼らは10年のキャリアがあるのに、自分はまだ2年しかない。なぜ同じレベルに達していないんだ」と悩んでいました。 でも、今振り返ると大事なのはそこじゃなくて──その期間にどれだけ“過程”に集中できたか、ということ。 結果に焦るよりも、自分の成長に丁寧に向き合うことのほうが、ずっと大切だったと伝えたいですね」
Q3:楽曲制作に欠かせない“マストなプラグイン”を、3つ挙げるとしたら何になりますか?
Nicky Romero : 「まず1つ目は、自分で開発したプラグイン『KICKSTART』です。 非常に実用的で、生産性も高い。自分の楽曲制作はもちろん、さまざまなバンドやアーティストにも使ってもらえているのが嬉しいですね」
▼ KICKSTARTとは?
Nicky RomeroがCableguysと共同開発した、EDMプロデューサー必携のサイドチェイン専用プラグイン。
“サイドチェイン”とは、主にキックとベースの音がぶつからないように、片方の音が鳴ったときにもう片方の音量を自動で下げる処理のこと。 マスタークラスでも本人が繰り返し語っていた「キックとベースの棲み分け」を、複雑な設定なしでシンプルかつ即戦力で実現できるのが最大の魅力。
現在では、機能をさらに強化した『KICKSTART 2』もリリースされており、既存ユーザーは無償でアップデート可能。 今なお多くのプロデューサーに愛用されている定番のプラグインとなっている。
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Nicky Romero : 「2つ目は、Sonic Academyの『KICK』というキックドラム専用プラグイン。”キックは何で作ってるの?” とよく聞かれるんですが、これはゼロから自分で音をデザインできるので、かなり重宝しています」
▼ KICKとは?
Sonic Academyが開発した、キックドラムに特化した音作り用プラグイン。
一般的なサンプルを並べる方法とは違い、サイン波やノイズを使って1から音を合成できるのが最大の特徴だ。 キックのピッチ、アタック、ディケイなどを細かくコントロールできるため、自分の楽曲に“ぴったりハマるキック”を自由に設計可能。 キックの存在感や抜け感にこだわるEDMプロデューサーにとって、まさに頼れるプラグインとなっている。
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Nicky Romero : 「3つ目は、FabFilterの『Pro-Q 4』という高機能なEQ。とにかく精密なコントロールができるので、ミックスの仕上げには欠かせません。 この3つは、自分のプロダクションにおいて常に“マスト”な存在です」
▼ Pro-Q 4とは?
オランダ発のプラグインメーカーFabFilterが手がける、プロフェッショナル向けのEQ(イコライザー)プラグイン。
視認性に優れたインターフェースと、帯域ごとにミリ単位で調整できる精密な操作性が最大の魅力。 周波数をリアルタイムで視覚的に捉えながら、不要な帯域をカットしたり、欲しい部分をブーストしたりといった細かなミックス処理が直感的に行える。 Nickyのように細部にまでこだわるプロデューサーにとって、ミックスの“仕上げ”に欠かせないプラグインである。
なお、FabFilterではこのEQに加えて、コンプレッサーやリミッター、ディストーションなど、楽曲制作に欠かせない名作プラグインも数多く展開している。 ぜひあわせてチェックしてみてほしい。
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Nicky Romero : 「それに加えて、David Guettaと一緒に開発しているプラグインもあるので、ぜひ楽しみにしていてください」
Q4:2025年、日本を含む全世界でどんなタイプの新人プロデューサーに出会いたいと思っていますか?
Nicky Romero : 「ジャンルで言えば、やはりプログレッシブ・ハウスに注目しています。 最近はこのジャンルのプロデューサーも増えてきていて、自分自身もDavid GuettaやThird Partyといったアーティストたちと共に、プログレッシブ・ハウスの楽曲を数多く手がけています。 Martin Garrixもそうですし、何より自分自身がこのジャンルを得意としているというのもあります。 プログレッシブ・ハウスは、たとえばテックハウスなどと比べても、より“感情を乗せやすい”楽曲が多いと感じていて、そこが魅力だと思っています。 2025年は、そういったサウンドに新しい風を吹き込んでくれる若い才能と出会えることを楽しみにしています」
Q5:Nicky Romeroと並行してMonoculeの名義でも活動されていますが、こちらではNicky Romeroとはまた異なる、より内面的なサウンドを展開されていますよね。この名義を立ち上げたきっかけ、そして表現したかった“もう一つの自分”について教えてください。
Nicky Romero : 「Monoculeでは、自分の“もう一つの側面”を表現したいという思いがあります。 普段はプログレッシブ・ハウスを中心に活動していますが、Monoculeではもっと自由に、クラブ寄りのサウンドや、自分の中にある新しい可能性を試す場として活用しています。 また、ジャンル的に普段あまり関わりのないアーティストとのコラボレーションにも取り組んでいて、そこから得られる刺激も大きいです。 ジャンルに縛られず、自由にクリエイティブなチャレンジができること──それがMonoculeの魅力だと思っています」
Q6:4月にDubVisionとの共作「Live My Life」をリリースされた際、SNSで「プログレッシブ・ハウスは復活したんじゃない。だって一度も消えていないから(progressive house isn’t back, because it never left.)」という印象的なコメントをされていました。この1年間もさまざまなサウンドに挑戦されていましたが、改めて、日本でも根強い人気を誇る“プログレッシブ・ハウス”というジャンルへの想いをお聞かせください。
Nicky Romero : 「僕はダンスミュージックを“波のようなもの”だと捉えています。ファッションと同じで、流行は繰り返しながら循環していくもの。音楽もまた然りで、昔のサウンドが形を変えて戻ってきたり、一周まわって再評価されるタイミングがあるんです。 たとえばColdplayのように、さまざまなジャンルに挑戦しながらも、最終的には自分たちの原点に立ち返っていく──音楽全体としても、そういった“循環”のような動きは常にあると思っています。
僕自身、メロディックな要素が好きということもあって、流行に乗ってテックハウスなどへ寄せることはせず、これまでもずっとプログレッシブ・ハウスを作り続けてきました。
そして実際に、2014年頃の黄金期をリアルタイムで体験していなかった若い世代が、今になってこのジャンルに触れ、”新しい”と感じてくれている。 そうして新しいリスナーが増えたり、新たな発見が生まれているのは、すごくポジティブなことだと感じています。 だからこそ、「プログレッシブ・ハウスは復活した」のではなく、ずっとそこにあり続けていたというのが僕の考えです」
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Q7:近年のセットリストではプログレッシブ・ハウスに加え、アフロ・ハウスやテック・ハウスの要素も積極的に取り入れていますが、特に最近注目しているアーティストや、面白いと感じているムーブメントはありますか?
Nicky Romero : 「メインステージでアフロ・ハウスや他ジャンルのエッセンスを取り入れることで、音楽シーン全体が前進していく、そんな感覚があります。
新しいジャンルのサウンドやムーブメントに触れることで、これまで出会えなかったオーディエンスやプロデューサーとつながることができる──それは僕にとって、シーンの可能性を広げるための大きなきっかけになっています。
ただ一方で、プログレッシブ・ハウスやテクノといったジャンルにおいて、本当の意味で技術を持った若いプロデューサーは、まだまだ限られているとも感じています。 ジャンルの本質を理解し、それを自分のサウンドとして昇華できるまでには、高いスキルと深い経験が求められます。それを本当に体現できる人は、そう多くはありません。 だからこそ、そういった“本物の技術と感性”を持った次世代のアーティストを見つけ出し、育てていくこと──それが今の自分にとっての大きなミッションのひとつだと思っています」
Q8:最後に、日本のトラックメーカーに向けてメッセージをお願いします。
Nicky Romero : 「こんにちは、Nicky Romeroです。自分のこれまでのキャリアや人生から、何か一つでも皆さんにとってのヒントや学びがあれば、それは本当に光栄なことです。
これから音楽の道を目指すプロデューサーやDJの方々に一番伝えたいのは、「明確な目標を持つこと」の大切さです。 とてもシンプルに聞こえるかもしれませんが、たとえば10,000時間、本気で音楽制作に取り組めば、必ず成長できると僕は信じています。 もちろんタイミングや運、環境といった要素もあるとは思いますが、絶対に諦めず、自分のサウンドを信じて作り続けてほしい。
その積み重ねが、やがてULTRA、EDC、Tomorrowlandといった世界の大舞台に立つための一歩になると信じています。 だからこそ──どうか途中で投げ出さずに、自分の可能性を信じて、突き進んでください」