フランス出身のプロデューサー/DJ、Madeon(マデオン)が最新シングル「Car Crash Baby」をリリースした。
今作は前作「Hi!」に続き、彼のサウンドが大きく変容しつつあることを強烈に印象づける一曲だ。ルーツであるY2Kフレンチ・エレクトロにインスパイアされながら、“成功や名声を追い求めることは自滅行為である”というテーマを掲げ、前後編で曲調が大胆に切り替わるドラマティックな展開が大きな魅力となっている。本人も「チャレンジだった」と語る野心作がここに誕生した。
何より本作を語るうえで欠かせないのが、Madeon自身が明かした創作テーマである。彼は次のように語っている。
「今回は、成功や名声を追い求めることを、まるで自滅行為のように描いた曲。そこに、自分が育ってきたフレンチ・エレクトロの要素を詰め込んだよ。曲の途中で音楽が大きく方向転換し、一気に楽観的なムードへ切り替わるんだけど、これはラップのビートスイッチが大好きな自分ならではの発想なんだ。歌詞も歌い方もプロダクションも、2年前の自分なら絶対に作らなかったもの……人生って、本当にいろいろあるよね。」
このコメントが象徴するように、「Car Crash Baby」は単にフレッシュな音像を追求しただけではない。自らのキャリアや心境の変化を“事故”になぞらえた、極めてパーソナルな作品である。ディストーションの効いたパンク的な質感、ローファイなノイズ、爆発力のあるエレクトロニック・グルーヴなど、まさに“エレクトロ・ローファイ・パンク”と呼ぶべき新領域へ踏み込んでいる。楽曲後半には、Madeonが得意とするエモーショナルでメロディックな展開も用意され、高揚感のあるクライマックスへと昇りつめていく。
海外メディアからは「2000年代インディーバンドがエレクトロをやったらこうなる」と評され、ザラついた生音と暴れ狂うエレクトロ、そしてエモの要素が混ざり合うハイブリッド感が高く評価されている。
Madeonは新章の開幕に先立ち、9月にロサンゼルスで謎めいたポップアップイベントを開催。暗号的なフライヤーを頼りに朝10時からファンが行列を作り、夜8時の開場を待って入場できたわずかな観客の前で、会場にそびえるスピーカーのタワーの上に佇むMadeonが登場。そこで「Hi!」を発表し、そのミステリアスでユニークな演出にファンは熱狂した。
10月にはその「Hi!」を正式リリースし、続いて名門野外ステージ「Red Rocks Amphitheatre」でのヘッドライナー公演では、音とビジュアル、空間を一体化させた新しい自分を提示した。
さらに「Car Crash Baby」のリリースに際し、SNSで「Back to finishing the album(=アルバムの仕上げ作業に戻るよ)」と投稿。次作アルバムの存在を匂わせている。
Madeon(本名:Hugo Pierre Leclercq/ユーゴ・ピエール・ルクレク)はフランス出身で、11歳から音楽制作を始め、16歳で発表した「Pop Culture (Live Mashup)」がYouTubeで世界的バイラルとなり、一躍エレクトロ・シーンの注目株となった。その後、Lady GagaやColdplayの公式リミックスを手がけ、卓越したサウンドデザインとポップセンスで“エレクトロの若き天才”として評価を確立。
2015年の1stアルバム『Adventure』ではメロディックでファンタジックな世界観を提示し、2019年の2ndアルバム『Good Faith』では全曲でリードボーカルを務めながらフレンチエレクトロの影響を昇華したソウルフルかつサイケデリックな新境地を開拓。第63回グラミー賞「最優秀ダンス/エレクトロニック・アルバム」にノミネートされ、そのアート性を世界に示した。ライブにも定評があり、Coachella、Lollapalooza、Ultraなど主要フェスの常連で、Porter Robinsonとのユニット「Shelter Live」は2016年に世界ツアーを成功させ、今も伝説的セットとして語り継がれている。
そんな“エレクトロの神童”と称された彼が、既成イメージを軽々と更新し、より感情的で生々しく、そして「二年前の自分なら絶対に作れなかった」と語るほど大胆なサウンドへ踏み出した。“Car Crash Baby”は、その壮大な物語の大きな一歩となるだろう。