Alysa Liu, PinkPantheress, Major Lazer
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アリサ・リュウ × PinkPantheressからMajor Lazerまで―ミラノ・コルティナ2026“ダンスミュージック五輪”総まとめ

PinkPantheress/Daft Punk/Major Lazer/MEDUZA/Gabry Ponte…競技・式典・パラまで総まとめ。過去の“五輪×DJ”史も振り返る

先日、大いに盛り上がりを見せた2026年ミラノ・コルティナ冬季オリンピックは、ダンスミュージック視点でも語りどころの多い大会だった。単に「式典にDJが出た」という話に留まらず、競技、ショーケース、開会式・閉会式、さらにパラリンピックまで、複数のレイヤーでダンスミュージックがリンクし、さまざまな形で話題を生んだ。

本稿では、ミラノ・コルティナで起きたトピックを整理しつつ、過去に五輪と電子音楽が交差してきた節目もあわせて振り返っていきたい。


1. フィギュア選手アリサ・リュウがPinkPantheressで氷上を舞う

最も分かりやすく拡散したのが、このトピックだろう。フィギュアのアリサ・リュウが、エキシビション・ガラで選んだ曲が大きな注目を集めた。彼女が滑ったのは、PinkPantheress & Zara Larssonの「Stateside (Remix)」。



これは競技本編ではなく、採点のないショー=公式ショーケースで起きた出来事だ。しかし、五輪のハイライト級の場面で、UKガラージ〜エレクトロに影響を受けた新世代のダンス・ポップが氷上で鳴ったインパクトは大きかった。映像は現地・海外メディアでもニュース化され、SNSでも一気に波及。反響は曲そのものにも跳ね返り、ストリーミングの伸びや、チャート面での再浮上としても話題になった。


ただ、彼女の音楽的な存在感はガラだけの話ではない。本戦で金メダルを獲得したプログラムが、Donna Summerのディスコ「MacArthur Park」だったことも注目された。ガラでは“いま”のダンス・ポップ、本戦ではディスコのクラシック。同じ選手の中で、時代の違う「踊れる音楽」を自然に行き来していたのが、いかにも2026年らしい。


2. アイスダンスで鳴ったDaft Punk、Eiffel 65

アイスダンスの「リズムダンス」部門は、シーズンごとのテーマに沿ってプログラムが組まれる。ミラノ・コルティナで提示されたテーマは「90年代の音楽」。この枠では、その時代を代表するポップスやダンスミュージックが軸となり、会場の空気が“90’s Dance Party”に変わった。

Jennifer LopezやLenny Kravitzなどのポップスが鳴る中、とりわけ象徴的だったのが、フランスのロパレワ/ブリソー組による選曲だ。Daft Punk「Around The World」「Revolution 909」「Da Funk」のメドレーに加え、David Guetta「I’m Good (Blue)」の元ネタとしても知られるEiffel 65「Blue (Da Ba Dee)」まで織り込んだことで、大きな話題を呼んだ。ここで面白いのは、単に“踊れる曲が増えた”というより、競技のルール設計側が90年代クラブ/ダンスの文脈を受け入れる構造になっていた点だ。


また、他の選手の選曲にもDavid MoralesからR3HABまで、ダンス文脈の小ネタが散りばめられていた。ここで印象的だった例を簡単に挙げておこう。

カナダ:2 Unlimited「Get Ready for This」/ Snap!「The Power」
イギリス:Spice Girls「Wannabe (Junior Vasquez Remix)」/「Spice Up Your Life (David Morales Remix)」
アメリカ:La Bouche「Sweet Dreams」/ Crystal Waters「100% Pure Love」
ポーランド:C+C Music Factory「Gonna Make You Sweat (Everybody Dance Now)」/ Skytech & Vion Konger「Rhythm Of The Night (R3HAB Edit)」

下記YouTubeで試合の模様を再視聴できる。あわせて、選手の入退場時にはDavid Guetta「Titanium」やSwedish House Mafia「Don’t You Worry Child」など、おなじみのEDM楽曲が使われていることも確認できる。




3. 閉会式はMajor Lazer+Gabry Ponte、開会式の選手入場は元RESET!のMACEが担当

式典の“顔”ともいえる開会式・閉会式も、昨今の流れを受けてダンス文脈で語れる内容だった。閉会式ではMajor Lazerがパフォーマンスし、さらにEiffel 65のメンバーとして知られ、現在もイタリアのダンスシーンで現役として活動するGabry Ponteも出演した。


Major Lazerは、シンガーのMØ、そしてイタリアのシンガー/ラッパーAlfaを迎え、ヒット曲「Lean On」をこの日のための特別バージョンで披露。さらにNylaを迎えた「Light It Up」をはじめ、「Watch Out For This (Bumaye)」「Que Calor」なども織り込み、会場を熱狂に包んだ。加えて、SkrillexとのJack Ü名義「Get Free / Cinema (VIP)」をマッシュアップ的に扱うなど、フェスのピークタイムを式典の場に持ち込むようなセットで締めくくった。




一方、開会式のキーマンとなったのが、イタリアのDJ/プロデューサーMACE (Simone Benussi)だ。2007年にミラノで始動したクラブナイト/コレクティブ「RESET!」のメンバーとしても知られ、2010年前後のエレクトロ/フィジェットハウス・シーンでも存在感を放った。Fatboy SlimやCassiusのリミックスを手がけた経歴も持つ。開会式では選手入場の長い時間を、自曲を中心としたメドレーでドライブし、その音源はYouTubeでも聴くことができる。



4. 3/6からのパラリンピック開会式はMEDUZAが担当

オリンピックだけで終わらないのも2026年の特徴だ。3月6日からヴェローナのアレーナで始まるパラリンピック開会式には、MEDUZAが参加することが発表されている。


大会全体の中に、ダンスミュージックを「見せ場」としてきちんと配置する意志が見えるのは、今の時代感を象徴していると言えるだろう。さらに興味深いのは、このラインナップが“EDM一色”ではなく、ダンスホール〜EDMを横断するグローバルなフェス感のMajor Lazer、ユーロダンスの歴史を体現しつつ現役として活躍し続けるGabry Ponte、そして地元イタリアの現行サウンドを代表するMACEやMEDUZAといった、土地の文脈をしっかりフックアップしている点だ。


5. 過去の“五輪×DJ”の歴史を振り返る

2026年のこのダンスミュージックの目立ち方は、点でも偶然でもない。ここで、五輪とダンスミュージック・電子音楽が交差してきた節目を簡単に振り返っておきたい。

2004年 アテネ:Tiëstoが開会式で長尺DJセットを担当。「五輪でDJがこの役割を担うのは初」とも報じられ、EDMムーブメント以前から大舞台で鳴らしてきた存在として、レジェンド性が際立つ。




2012年 ロンドン:Underworldは出演者としてではないが、開会式全体のサウンドを統括する音楽ディレクターとして就任。ダンスミュージックが世界的イベントの「音の設計」に入り込んだ転換点と言える。



2016年 リオ:Kygoが閉会式でパフォーマンス。EDMムーブメントと大会がリンクした象徴的な瞬間。



2018年 平昌 (冬季):閉会式でMartin GarrixがDJを担当。韓国のDJ Raidenも参加した。



2021年 東京:オリンピック/パラリンピック開会式の音楽監督をFPM田中知之が担当。なお、さかのぼれば1998年 長野 (冬季)の開会式音楽にはKen Ishiiが関わっていたことでも知られる。



2024年 パリ:パラリンピック開会式でEd BangerのMydが、選手団パレードのDJを担当。



ミラノ・コルティナで起きたのは、ダンスミュージックが“賑やかし”や“余興”として添えられたのではなく、競技・ショー・式典といった複数の場面で、国や世代をつなぐ共通言語として機能していた、ということだ。アリサ・リュウが新世代の“いま”を奏でて、アイスダンスが90年代の熱狂とノスタルジーを競技の世界観で再構築し、式典がフェス感とイタリアの音楽史を同じ舞台に並べる。

ダンス・カルチャー側の視点から見ても、2026年は“語れる材料が揃った大会”だったと言っていいだろう。