「一人でも踊ってくれたら、それで勝ちだ」。
UKロンドンを拠点に活動するデュオ Joy (Anonymous) は、16歳で出会ったHenry Counsell(ヘンリー・カウンセル)とLouis Curran(ルイ・カラン)によって結成された。
バンドやDJカルチャーを経てロックダウン期に本格始動し、路上ライブから始まり、瞬く間にシーンを駆け上がった。彼らの音楽の中心にあるのは常に“JOY”。それは単なる幸福ではなく、「あらゆる感情から解き放たれた瞬間」を意味する。この夏、彼らはFred again..との初となるアジアツアーに参加し、その一環としてフジロックの舞台にも初登場。深夜のステージを観客の笑顔と熱狂で満たし、会場をひとつにした。また、ツアーに続いて急きょ発表されたFred again..の単独公演でもサポートアクトを務め、東京と大阪の観客を熱狂させた。さらにボーカルのHenryはFredのステージにゲスト出演し、「peace u need」を披露。会場に大きな感動をもたらした。
その勢いのまま、EDMMAXX編集部を代表してDJ/ライターのTJOが独占インタビューを実施。世界を巻き込む“JOY”のムーブメント、その真意に迫った。
・結成のキッカケと歩み
TJO: 二人がJoy (Anonymous)を結成することになった経緯を教えてください。最初の出会いはどのようなものでしたか?
Henry: 僕たちは16歳のとき、学校で出会いました。当時、LouisはDJ活動をしていて、僕はバンドをやっていました。仲の良い友人ではありましたが、一緒に音楽を作っていたわけではありません。大学を卒業した後に「From Concentrate」というレーベルを立ち上げ、Louisがロンドンに戻ってきたことをきっかけにイベントを開催したり、音楽をリリースしたりするようになりました。周囲に多くのバンドやアーティストがいたので、「自分たちも何かをやろう、まとめてみよう」と思ったのです。そうして生まれたのがコレクティブ「From Concentrate」。活動を続ける中で徐々にJoy (Anonymous)のアイデアが形になり、ロックダウンの時期に本格的に始動しました。もちろんそれ以前にも曲は出していましたが、ずっとJoy (Anonymous)というコンセプトを温めていたんです。「劇場やさまざまな場所でやったらどうか」「もっとコンセプチュアルにできるのではないか」と考えながら。そんな中でロックダウンが起き、Joy (Anonymous)の本当の意味が現実のものになりました。そして予想もしなかった出来事が次々と重なったのです。これが僕らの歩みを簡単にまとめたものですね。
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・“Joy”という言葉に込めた意味
TJO: “Joy”という言葉は、Joy (Anonymous)の音楽における大きなテーマですよね。すべてのメイントラックに含まれているのも特徴的です。この言葉に込めた意味やメッセージを教えてください。
Louis: 僕らが強調したいのは、「Joy=単なる幸福」ではないということです。Joyとは「あらゆる感情が存在しない状態」を指しています。それが悲しみであっても、ネガティブな気持ちであっても、迷いであっても、もちろん幸福感であっても同じ。ただ「その瞬間にいること」なんです。決して「いつもハッピーで何もかも素晴らしい」ということを音楽で伝えたいわけではありません。もちろん音楽は高揚感を持たせたいですが、Joyとは「他の感情が存在しない状態」そのものだと考えています。
・初めて聴くならこの1曲「Human Again」
TJO: 初めてJoy (Anonymous)を聴く人にオススメしたい楽曲は?
Henry: 僕は「Human Again」をオススメします。
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TJO: 実はそれ、僕も一番好きな曲なんです!
Henry: 本当に?ありがとう。あの曲には僕たちのエッセンスが詰まっています。生楽器の演奏、歌詞のメッセージ、歌声やホーン、すべてが揃っている。1stアルバムを象徴する曲でもあり、その時期のコンセプト「再び人間らしさを取り戻す」を体現した作品でした。あの頃は孤立の時代で、人々は迷ったり、麻痺してしまったりしていた。僕らが望んでいたのは、もう一度「何かを感じたい」ということだったんです。だからこそ、この曲から入ってもらうのが最適だと思います。
Louis: 僕も同意見です。アルバム『Human Again』はJoy (Anonymous)を知る最初の一歩としてピッタリで、聴き進めるうちに僕らの進化も感じてもらえるはずです。
・ステージで大切にしていること
TJO: Joy (Anonymous)のライブはいつもJoyと一体感にあふれていて、会場全体がピースフルで温かい雰囲気に包み込まれます。ステージに立つときに心がけていることはありますか?
Louis: そうですね、まず自分たち自身が楽しむことを大事にしています。本当に楽しんでいる姿を見せたいし、実際そうなんです。演技ではなく、心から楽しんでいる。それって自然とお客さんにも伝わるんですよね。僕たちが踊ったり笑い合ったり、ステージ上で冗談を言い合ったりしている姿を見れば、観客も自然と笑顔になる。多くのDJは真剣な表情で動かずにプレイすることが多いですが、僕たちは「楽しさ」を感じてもらう事を何よりも大切にしています。
Henry: その姿勢は誠実さでもあります。僕とLouisは観客が誰もいない場所でプレイした経験が何度もあります。それでも新しい曲を大音量でかけることにワクワクしていました。「一人でも踊ってくれたら、それで勝ちだ」と信じてきました。その思いをずっと持ち続け、幸運にも今では多くの人に伝わるようになったんです。
TJO: フジロックでのパフォーマンスはとても感動的でした。
Henry: ありがとうございます。本当に嬉しいです。
・日本で受けたインスピレーション
TJO: Joy (Anonymous)の音楽はリアルな「音」と「感情」に根ざしていると感じます。今回のアジア・ツアーや日本滞在で、特にインスピレーションを受けた瞬間はありましたか?
Henry: フジロックのあと、東京へ戻る道のりがとても印象的でした。フェスを終えて静かな山間の町を通り抜け、やがて一気に東京の街に入っていく。その過程自体がインスピレーションになりました。イギリスの田園風景を思わせる部分もあれば、深く見ていくとまったく異なる感情や感覚もある。東京はロンドンやニューヨークのような大都市ですが、その“心”はまったく違うものでした。人々があらゆるものに自然に敬意を払う姿を感じられて、それが大きな刺激になりました。
・フジロックでの驚きの体験
TJO: フジロック初出演はいかがでしたか?
Louis: 本当に素晴らしい体験でした。正直、何を期待すればいいのか分からなかったんです。フジロックを調べたときにはアークティック・モンキーズがヘッドライナーを務めていたのを知りましたし、数か月前にFour Tetと話したときも「日本のグラストンベリーのような本当に素晴らしいフェスだ」と言われていました。エージェントからは「小さなダンステントでプレイする」と聞いていたのですが、実際に行ってみるとかなり大きなステージで、おそらく二番目に大きい規模でした。午前2時の出演でしたが、光るボールをジャグリングしている人、踊る人、歌詞を口ずさむ人までいて。本当に驚きましたし、とても幸せな時間でした。
・Circus TokyoでのB2Bセット
TJO: CIRCUS TOKYOでのシークレットショーでは、日本のアーティストとB2Bセットも披露しました。反応はいかがでしたか?
Henry: とても楽しかったです。クラブカルチャーは都市ごとに違うので、それを見るのは本当に最高ですね。フェスはある程度予想がつきますが、クラブは全く異なる。その街の人々がどんな音楽を好むのかで雰囲気が変わるんです。だからこそ新鮮でしたし、普段とは違うセットも披露できました。普段よりもハウス寄りで、ディスコの要素も加えたセットにしたのですが、それが本当に楽しかったですね。
・ローカルアーティストとの交流
TJO: Fred again.. などもそうですが、お二人は各地でローカルアーティストとつながることを大切にしていますよね。その理由もお聞かせください。
Louis: それはインスピレーションと学びのためです。他の人がどうプレイしているかを見るだけで、必ず何かを得られる。地元のアーティストと出会って彼らのサウンドを聴くのはとても刺激的です。特にここ日本ではUKサウンドが人気のようで、Ryotaのプレイも本当に素晴らしかった。アイデアやサウンドを交換するのは楽しいですし、ローカルアーティストは美味しいレストランやバーも教えてくれる(笑)。一緒に過ごしながら、街の面白い場所を知る最高の方法でもあります。
・セットを決めないスタイル “Joyous People”
TJO: フジロックではUKガラージ、CIRCUS TOKYOではハウス寄りのセットでした。会場ごとに、どのようにセット内容を決めているのですか?
Henry: 僕たちは
「Joyous People」 という企画を始めたんです。さまざまなDJと一日かけてB2Bを繋いでいく取り組みです。僕らはこれまで一度もセットリストを事前に決めたことがありません。毎回、何をかけるか分からないまま臨む。その緊張感が好きなんです。共演するDJにも「あなたのスタイルでやってほしい、僕たちは反応するから」と伝えています。その“反応する”という感覚が大好きで。音楽の知識も幅広いので、相手に合わせてすぐ動けるんです。例えば先日の日本のDJたちは、もっとハードな展開で来ると思っていたら素晴らしいハウスやディスコをかけてきたので、「じゃあ僕たちもこれをやろう」となった。久しぶりに引っ張り出した曲もありました。それが僕らのスタイルなんです。ほとんど計画はせず、ただ豊富な“在庫”を持っているだけです。
TJO: フジロックのUKガラージセットは最高でした!ベースもビートも強烈で思わず「Oh my God!」と叫んでしまいました。
Henry: ハハハ (笑)
Louis: 実はあのセットはすべて自分たちの曲だったんです。新しいアルバムからの楽曲もたくさん披露しました。それは後ほどまた(block.fmのMix収録で)プレイする予定です。
・新アルバムと今後の展望
TJO: 新しいアルバムの制作過程をSNSでシェアしていますが、日本のファンに向けて聴きどころを教えてください。
Louis: できれば全曲聴いてほしいですが(笑)、今回はこれまで以上にヘヴィな楽曲にも挑戦しました。そして特筆すべきはTodd Edwardsとのコラボレーションです。4〜5曲に参加してもらい、アルバムの仕上げを手伝ってくれました。彼のハーモニーの魔法が加わり、全体がさらに高められたんです。世界的に見ても最高のアーティストの一人ですから、本当に光栄でした。
Henry: 制作の過程では多くの国を訪れることができ、その経験が作品に込められています。生楽器を録音し、それをサンプリングし直してダンスミュージックに変える。すべて自分たちでサンプルを作りました。厚みのある世界観が作品全体に流れていて、きっと「また一歩先に進んだ」と驚いてもらえると思います。
TJO: 今後のリリースや新しいプロジェクトについて、何か発表できることはありますか?
Louis: まだアルバムの最終仕上げをしている段階です。いくつかコラボ曲を先に出すかもしれませんが、詳細は未定ですね。来年には必ず新しい音楽を届けられると思います。
・日本のファンへメッセージ
TJO: 最後に、日本のファンへメッセージをお願いします。
Louis: ショーに来てくれて本当にありがとう。日本でライブができたこと、そして街で多くの人に出会い、素敵な会話ができたことを嬉しく思います。ここで出会った皆さんは本当に親切で、心から感謝しています。
Henry: 「Shiawase Janaito(幸せじゃないと)」
TJO: おお、いいですね!
Henry: ちゃんと言えたかな(笑)
彼らの音楽は、まず自分たち自身が心から楽しむことから始まる。世界中のあらゆる場所で人々やカルチャーに飛び込み、リスペクトを忘れず、その喜びを観客へと伝播させていく。「Shiawase Janaito」と屈託のない笑顔で語った瞬間、Joy (Anonymous)の本質を垣間見た気がした。そして最新アルバムという次なる一歩で、彼らがどんな“JOY”を届けてくれるのか、期待せずにはいられない。