EDMのパーティって行ったことないし、どういう音楽なのかよく分からない。そんな言葉をよく耳にするけれど、いやいや、実はそういう人だってフツーにEDMは聴いてるはずです。
なぜなら、今やヒット・チャートの上位にもEDMが多数ランキングしており、ポップ・シーンにも確実にEDMの波は押し寄せているからです。
ここでは洋楽ソングのEDMないしEDMを取り入れた曲を紹介しつつ、洋楽ヒット・チャートにおけるEDMの席巻ぶりをお伝えしたいと思います。
以前のコラムにもあるように、EDMがヒット・チャートに顔を出し始めたのは、EDMムーヴメントの立役者といえるデヴィッド・ゲッタ(David Guetta)が浮上してきた2009年あたりから。
その頃はまだEDMとは呼ばれておらず、ユーロダンスやエレクトロ・ハウスなどというボンヤリしたくくられ方で、ヨーロッパを中心に人気のポップなダンス・ミュージックという認識でした。
アメリカでの盛り上がりはいまひとつ。というのは、R&Bやヒップホップが巨大勢力を持つアメリカでは、ポップなメロディに乗せた歌ものダンス・チューンはウケないと思われていたからです。
その偏向を変えるきっかけとなったのが、デヴィッド・ゲッタが元デスティニーズ・チャイルドのケリー・ローランド(Kelly Roland)をシンガーに起用した「When Love Takes Over」だったと言われています。
デヴィッド・ゲッタはフランス人、ケリー・ローランドはアメリカ人。アメリカの歌姫を起用したこの曲はヨーロッパを中心に大ヒット。
しかし、やはりアメリカではいまひとつ。まだ時期尚早だったようです。
David Guetta Feat. Kelly Rowland – When Love Takes Over
しかし、その後もデヴィッド・ゲッタはエイコンやリアーナ、ニッキー・ミナージュ、シーア、ニーヨらアメリカを中心に活躍する国際的なシンガーを次々とフィーチャーしてヒット街道まっしぐら。というのは、ご存知の通りですよね。
けれども、彼は実はもうひとつ偉業を成し遂げています。
2009年のブラック・アイド・ピーズ(Black Eyed Peas)のアルバム『The E.N.D』にプロデューサーとして参加。それまでのブラック・アイド・ピーズからは180度異なると言っても過言ではないEDM寄りに振り切ったサウンドスケープを描いてみせて、「I Gotta Feeling」などのヒットを連発。
アメリカは勿論のこと世界の音楽地図を塗り替えてくれました。以来、グッとEDMが身近になりました。
The Black Eyed Peas – I Gotta Feeling
デヴィッド・ゲッタと並んでEDM界の2大巨頭とされるカルヴィン・ハリス(Calvin Harris)も……もはや説明不要ですよね。
デビュー当時はもっとこじんまりとしたいかにもベッドルームで作りました、という感じの電子音だったのが、人気の上昇と共にDJをするクラブの規模も大きくなり、今やアンセム調。
彼が思いっきりハジけたのは、2011年のリアーナの「We Found Love」あたりから。
彼は同曲のソングライティングとプロデュースを手がけると、ポップ・ソングの中にもEDMのアッパー感や前衛エレクトロニック・サウンドを持ち込めることを証明しました。
その後は、エリー・ゴールディングやフローレンス・ウェルチら有名シンガーをフィーチャリングしたヒットを多発……というのはデヴィッド・ゲッタと同様です。
Rihanna – We Found Love ft. Calvin Harris
その有名シンガーと組むというのが、ひとつの定石、成功の方程式のようです。
ゼッドはアリアナ・グランデやセレーナ・ゴメスと組み、DJでないけれどウィル・アイ・アムもブリトニー・スピアーズやジャスティン・ビーバーと組んでいます。
ピットブル(Pitbull)の参加曲ならほぼ間違いなくEDMと呼べそうです。
Jennifer Lopez – Live It Up ft. Pitbull
また有名シンガーの代わりに、新人シンガーの登竜門として使われることも多々あります。
アレッソはトーヴ・ロウを、ディプロはムーをいち早く起用。
それが恋に発展することもあるようで……カルヴィン・ハリス&リタ・オラ、ゼッド&セレーナ・ゴメスのロマンスは大きく報じられました。
両カップルとも楽曲でコラボした後、破局しましたが、後者の交際に関しては「単なるPR活動でしょ」というディプロのような冷静な見方もありますが。
そのディプロ(Diplo)はといえば、プロデューサーとして数え切れないほど多くの大物シンガーたちを手がけています。
最新作でコラボしたマドンナを筆頭に、アリアナ・グランデ、ジェニファー・ロペス、クリス・ブラウン、ティナーシェ、イギー・アゼリア、アッシャー、ビヨンセ、ケイティ・ペリー…等々。
そういえば、彼とケイティにも恋の噂がありましたっけ。
ダンスホールをベースとする彼のスタイルは、他のEDM系アーティストとは少々アプローチが異なっています。
Major Lazer & DJ Snake – Lean On (feat. MØ)
またDJにとってリミックスはお手のもの。リミックスから火が付くパターンもあります。
例えばラナ・デル・レイは独特の世界観を持ったシンガーとして非常に高い評価を獲得していますが、そもそもシングル・ヒットはあまり期待されないアルバム・アーティスト。
そんな彼女による「Summertime Sadness」をセドリック・ジェルヴェイ(Cedric Gervais)がリミックスしたところ、ひょんなことから大ヒットに。うつろな哀愁メロがアンセム化されました。
オリジナルを超えて彼女のキャリア最大のヒットとなったのは、EDMの潜在ニーズがどれほど大きいかを如実に語っていると言えそうです。
Lana Del Rey, Cedric Gervais – Summertime Sadness
そしてアンセム化と言えば、この人を抜きに語れないのがアヴィーチー(Avicii)。
全世界で軒並みナンバーワンを獲得した「Wake Me Up」を始めとするヒットを続発しているスウェーデン生まれの彼は、ヨーロッパの伝統的な音楽を思わせるメロディ使いが特徴です。
Avicii – Wake Me Up
このアンセム調というのが、EDMにとってはキーポイントでしょうか。
屋外の大規模なフェスなどで何万もの観衆を熱狂させるには、みんなで歌える、みんなで踊れるというのが大きなポイント。バウアー(Baauer)による「Harlem Shake」などは正にその典型でしょう。
みんなで踊ってネットに投稿して、動画サイトから火が付いたりするのもEDMらしい現象です。
The Best of Harlem Shake – 2013 – Original Baauer Harlem Shake Videos
同じく動画サイトと連動したヒットには、ザ・チェインスモーカーズ(The Chainsmokers)の「#Selfie」がありました。
ネット・カルチャーの「自撮り=セルフィー」をネタにしたところ突発的に大ヒット。このEDMならではのフットワークの軽さは特筆ものです。
音楽だけに限らないユース・カルチャー、パーティ・カルチャー全般をEDMが代弁しているからでしょう。
#SELFIE – The Chainsmokers
「EDM=パーティ=オバカ」というのもひとつのキーワードとして浮かびます。
LMFAOや、DJスネーク&リル・ジョン(DJ Snake & Lil Jon)の「Turn Down For What」にしてもシャレのセンスが利いていますよね。
DJ Snake, Lil Jon – Turn Down for What
更にそこから、歌って、踊って、回す、というツワモノまで登場しました。
ハヴァナ・ブラウンは、DJブースから飛び出し、歌って踊って……いわゆるダンス系の歌姫のようなライヴを展開。
勿論、歌い踊っている際は、DJプレイの方は放ったらかしですが(笑)。
さて、ここからEDMはどこへ向かうのか。楽しければ何でもアリのEDM。
そろそろマジックやイリュージョンが飛び出したりしても驚いちゃいけません。
Havana Brown – Big Banana ft. R3hab, Prophet
text by Hisashi Murakami