NEWS
EDITOR'S PICK

「グラストンベリー2024」EDM MAXXレポート

UK最大級フェス『グラストンベリー・フェス』のハイライトをダンスミュージック視点でレポート by TJO

2024年6月26日から30日、4日間に渡ってイギリスで『グラストンベリー・フェスティバル』が開催された。ここでは主にダンスミュージック観点から今年のハイライトを紹介していきたい。

・まず『グラストンベリー・フェスティバル』とは?

Glastonbury Festival
https://www.glastonburyfestivals.co.uk/

イギリスのピルトンの広大な農場で1970年9月19日に『ピルトン・ポップ・アンド・ブルース・フォーク・フェスティバル』という名で初めて開催。当時は音楽だけでなく、サーカスや演劇、ジャズ、ダンス、レゲエのサウンドシステム、映画上映までが内包されたものだった。初年度に1500人を集め段々と規模を大きくし、1981年に『グラストンベリー・フェスティバル』と改名する。今年も約60ものステージが用意され(最も大きいメインステージ「Pyramid Stage」は12万人以上を収容)、イギリス最大のフェスティバルとして知られている。ロックやポップのアーティストだけでなく今年はDisclosure、Peggy Gou、Eric Prydz、Fatboy Slimといった大御所から、Andy Cやレーベル「Hospital」ショーケース、saluteやsammy VirjiなどイギリスらしいドラムンベースやUKガラージのアクトが多かったりとダンスミュージック勢も充実。また今年はK-POP初となるSEVENTEENや日本からもバンドのおとぼけビ~バ~やDJ、レイヴ・クルーのみんなのきもちが出演した。


また数々の話題を提供する場としても知られ、最も象徴的なのは2008年にラッパーのJay-Zをヘッドライナーに迎えた際に、バンドOasisのノエル・ギャラガーが「ヒップホップ・アーティストにヘッドライナーをやらせるのは間違っている」と反発。Jay-Zはライブ当日、そのノエルの反発コメントの映像を巨大スクリーンに映し出し、ギターを抱えてOasisの「Wonderwall」をカヴァーして観客を一気に掴む演出で世界中の話題をさらった。



今年の大きなトピックとなったのはヘッドライナー2組の無料生配信だろう。パンデミック渦の2021年にバーチャルで世界配信された事はあるがこの試みは初で、6月28日のDua Lipa、そして29日のColdplayが生配信され、また現在も期間限定ではあるが2組の配信が視聴可能となっているのでぜひその規模感を味わって欲しい。

The full set of Dua Lipa at Glastonbury 2024(7月9日まで)

The full set of Coldplay at Glastonbury 2024(7月10日まで)




ここからはダンスミュージック視点から見る今年のグラストンベリーのハイライトを紹介しよう。

・Coldplay、Martin Garrixをマッシュアップ

グラストンベリー史上初、5度目となるヘッドライナーを務めたColdplayは貫禄のパフォーマンスはもちろんのこと多くの話題も振りまいてくれた。アフリカン・ミュージックのFemi Kutiとの2019年のコラボ作「Arabesque」や今年の同フェスにも出演していたラッパーLittle Simzを招いて新曲を披露したりと様々なジャンルのゲストを招き入れていたが、中でも先週末のダンスミュージック界隈のSNSを沸かせたのがThe Chainsmokersとの「Something Just Like This」のパフォーマンスだ。大きな盛り上がりを見せる原曲から後半突如としてBPMを上げ、Martin Garrix x Mesto「Breakaway」を生バンド演奏でマッシュアップし、さらに会場は熱狂に包まれた。これにはMartin Garrix本人も驚きと共に喜びのSNS投稿をして反応していた。


そしてラストで演奏したのが故Aviciiがプロデュースした「A Sky Full Of Stars」。12万人もの観客達が携帯のライトをかざす景色は圧巻。さらに盛大に花火が上がり感動のフィナーレを迎えた。



アンコールの「Fix You」でハリウッド俳優のマイケル・J・フォックスをギターとして招き入れ、映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の名場面でも使われた「Johnny B. Goode」も後半で演奏。ヴォーカルChris Martinはこの映画のシーンがバンド結成のキッカケとなったとマイケルに感謝を述べていた。Coldplayは2016年にもNYでマイケル・J・フォックスと共演している。



・UKダンスシーンにオマージュを捧げたDua Lipa

今年リリースされた最新アルバム『Radical Optimism』は「90年代のUKダンス・シーンに捧げた1枚」だと語っていたDua Lipa。ライブでも数々のオマージュを垣間見せてくれた。

まず1曲目となる「Training Season」ではPrimal Screamがロックとアシッド・ハウスをを融合させた90年代を代表する名作アルバム『Screamadelica』から「Loaded」を引用し、2曲目にはClavin Hariissとのコラボで、現地ではサッカーアンセムとして愛されている「One Kiss」をパフォーマンス。後半には原曲にないダンスパートを盛り込み、ライブならではの醍醐味を盛り込んだ。DiploとMark RonsonのユニットSilk Cityとのグラミー受賞曲「Electricity」も演奏し、「New Rules」ではUKのダンスユニットのBicepの名曲「GLUE」をマッシュアップするなど、ダンス愛に溢れるオマージュを捧げてくれた。また今作アルバムのメインプロデューサーのKevin Parkerを招き入れ、彼のプロジェクトTame Impala「The Less I Know the Better」のカヴァーやKevinのギターをフィーチャーしてのヒット曲「Houdini」で幕を閉じた。



・Fred again..サプライズでアンビエントセット

60もの数あるステージの中で「Strummerville」に何のアナウンスもなく突如として登場したのはFred again..。驚きの表情に溢れる観客達を座らせ、その日披露したのは30分に渡るアンビエントセットだった。Fred again..は10代の時にアンビエント界の巨匠Brian Enoに師事していた経験があり、元々アンビエントの教育もしっかりと受けているエリート。そんな師匠Brian Enoと去年発表したコラボアルバム『Secret Life』の収録曲と未発表作品を中心に普段とは違う貴重なセットを届けてくれた。ちなみにSNSでは6/27にブリストル空港で目撃情報があり、もしかしたらシークレットで登場するのはないかと噂も流れていたが、そこからアンビエントセットをやるという予想だにしない展開で驚かせてくれた。



・Disclosure、Sam Smithと名曲「Latch」を披露

グラストンベリーを「地球上で一番愛すべき場所だ」とSNSで評したDisclosureは、新曲となる「She’s Gone, Dance On」をプレイ。その盛り上がりの様子たるや地元イギリスでの圧倒的な人気がうかがえる。



そして一番のサプライズとなったのはSam Smithの登場だろう。初期名曲「Latch」をSam本人を迎えてパフォーマンスした。



・Peggy Gou SNSリバイバル・ヒットのあのシンガーを召喚

2023年「(It Goes)Nanana」の大ヒットを経て世界中のフェスに引っ張りだこのPeggy Gouは、Sophie Ellis Bextorをステージに招き「Murder On The Dancefloor」をサプライズ披露。この曲は元々2001年にヨーロッパを中心にヒットした楽曲で、昨年Amazon Prime映画『Saltburn』で使用されると再びリバイバル・ヒットしダンスミュージック・シーンでも数々のリミックスが生まれた。




・Spice Girlsなど客演で華を添えたレジェンドOrbital

Underworld、The Chemical Brothers、Prodigyと並び90年代のテクノ・レイヴシーンを牽引したベテランOrbital。今年で7回目となるグラストンベリー出演だがオープニングから会場を沸かせてくれた。
1曲目「Deeper」とラストとなるテクノ・クラシック「Chime」では映画『ナルニア国物語』シリーズや『ドクター・ストレンジ』への出演で知られる英国出身の大物ハリウッド俳優ティルダ・スウィントンがステージでポエトリー・リーディングを行った。意外な人選に驚いたリアクションも多くあったが、実は1996年のOrbitalの楽曲「The Box」のMVで主演を務めていたのがティルダだったという縁でこの企画が実現したそう。


またSpice Girlsの一大ヒット「Wannabe」をサンプリングした「Spicy」ではメンバーのMelanie Cがサプライズで登場し、会場を盛り上げた。




・夏の来日も期待大!Nia Archives & Kenya Grace

8月の「SONICMANIA 2024」に出演予定、昨年の単独以来およそ1年ぶりとなるNia Archivesもまるで90年代にタイムスリップしたかのようなジャングル・バイブスでステージを盛り上げた。


彼女はシンガーとしても活躍中。日本でこのステージングが観れるのがとても楽しみだ。




そして同じくシンガーとしてUKの現行ドラムンベース・シーンを牽引するのがKenya Graceだ。「Strangers」が大ヒットし、BBCの選ぶその年の注目新人に選ばれ、アメリカ最大級の音楽フェス「Coachella」への出演も果たした彼女は「FUJIROCK FESTIVAL’24」での来日も間近に控えている。
Kenya Grace – Strangers (Glastonbury 2024)



・Banksyがグラストンベリー会場で新作パフォーマンスアートを披露

ダンスミュージックネタではないが、イギリスだからこそのトピックとしてこちらを紹介したい。ロックバンドIDLESのステージで世界的覆面アーティストBanksyが予告無しで観客の頭上を移動する形で人の形を模した人形を乗せたゴムボードを突如出現させた。バンドも観客の演出だと思っていて、観客もまた政治的メッセージを放つバンドのパフォーマンスと思っていたそうだ。ちなみにこのボートが出現したのはウクライナ移民について歌った「Danny Nedelko」を披露している最中であったとの事。



・圧倒的なパフォーマンスを見せてくれたSZA、Little Simz

最後にヒップホップ、R&Bから。残念ながらフジロックでのヘッドライナー来日が叶わなかったSZAによるヒット曲「Kill Bill」のパフォーマンスを。



そしてダンスミュージック・シーンでの客演も多いUKを代表するラッパーLittle Simz。彼女のバンドを従えた圧倒的なパフォーマンスに感動したのでこちらもぜひ紹介させて欲しい。


今年も様々なハイライト・シーンを提供してくれたグラストンベリー。来年2025年の開催も楽しみにしたい。