「えっ、こんなアーティストまでEDMやってるの?」と驚くかもしれないけれど、もはやEDMはポップ/ロック・アーティストにとってもやり過ごせない重要な音楽ジャンル。
続々と登場するEDMを取り入れた洋楽ポップ・ソングを紹介しつつ、なぜ各国のヒット・チャート上位をこんなに席巻しているのかを、わかりやすく解説します。
これまで洋楽ポップスといえば、少数の例外を除けば、大抵が英米のアーティストによる独占市場。
北米(アメリカ&カナダ)とイギリスが中心だったわけですが、でもEDMに人種や国籍は関係ナシ。
英語の歌詞も極力シンプルです。
というわけで、英語が母国語ではないアーティストたちも、英語で歌ってドシドシ世界に進出。
たとえば日本でも大ヒットした「Mr. Saxobeat」を歌ったアレクサンドラ・スタン(Alexandra Stan)やインナ(Inna)は、東欧ルーマニアの出身です。これまでルーマニアの音楽といえばオゾン(O-ZONE)の「恋のマイアヒ」くらいしか浮かばなかったかもしれないけれど(笑)、ルーマニアの黒海周辺のダンス・クラブ・シーンは今や大盛況。東欧のイビサと呼ばれているほどです。
Alexandra Stan – Mr Saxobeat
ティマティ(Timati)というラッパーはロシアから登場です。
スヌープ・ドッグ(Snoop Dogg)やティンバランド(Timbaland)、フロー・ライダー(Flo Rida)といったアメリカのスターとも共演を果たし、クロージング・ライン(自身のファッションブランド)を展開。
ファッション・リーダーとしても人気者です。
彼の世界進出の足場を作ったのもEDMを取り入れた曲でした。
DJ Antoine vs Timati feat. Kalenna – Welcome to St. Tropez (DJ Antoine vs Mad Mark Remix) [Lyrics]
現在大ヒット中のメジャー・レイザー(Major Lazer)&DJスネーク(DJ Snake)の「Lean On」。
あの曲で歌っている女性シンガー、ムー(MO)はデンマーク人です。
EDMシーンでは英米には見られないエキゾチックな個性が求められているようです。
Major Lazer & DJ Snake – Lean On (feat. MØ)
スウェーデンからも新たなポップ・スター、トーヴ・ロウ(Tove Lo)が登場。
スウェーデンは今やアメリカ、イギリス、ドイツに次ぐ音楽大国なので、それほど意外性はないものの、EDMの後押しを得ての世界進出でした。
アレッソ(Alesso)と組んだ
「Heroes (We Could Be)」のヒットでもお馴染みですが、最初に名前が知られたのは「Habits (Stay High)」という曲。
決してアッパーではないこの曲のリミックスが、じわじわとヒット・チャートを上っていったのは、画期的な出来事でした。
Tove Lo – Habits (Stay High) – Hippie Sabotage Remix
この「じわじわチャートを上る」というのが、ひとつのパターンのようです。
オミー(Omi)の「Cheerleader」はヨーロッパから火が付き、じつに1年以上かかってアメリカで首位を獲得。
オミーはジャマイカ人ですが、リミックスを担当したのはドイツ人のフェリック・イエーン(Felix Jaehn)。
ウルトラ・レコーズ(Ultra Records)の社長のアイデアで作られたリミックスでしたが、それが大当たり。
ゆったりしたビートに乗せて世界中に「じわじわと」拡散。トロピカル・ハウスのブームにも貢献しました。
OMI – Cheerleader
同じパターンでリミックスが世界中に「じわじわと」広がったのが、イスラエル系のフランス人の歌う、リリー・ウッド&ザ・プリック(Lilly Wood & The Prick)の「Prayer In C」です。
こちらもドイツ人DJ/プロデューサーのロビン・シュルツ(Robin Schulz)のリミックスにより大ヒット。
トロピカル・ハウスの波に乗ったのはもちろんのこと、フォーキーなサウンドがEDMリスナーのネオ・ヒッピーやボーホー系ファッションとも合致しました。
髪に花飾りを付けたりする現代版フラワー・チルドレンのスタイルは、EDM系のフェスでもよく見かけますよね。
ラヴ&ピースは万国共通。EDMフェスに万国旗が持ち込まれるようになったのも納得です。
Lilly Wood & The Prick and Robin Schulz – Prayer In C (Robin Schulz Remix)
他の音楽ジャンルとの相性の良さ、折衷力(せっちゅうりょく)も見逃せません。
スクリレックス(Skrillex)は早くからロック・バンドのコーン(KORN)とコラボを行ない、スティーヴ・アオキ(Steve Aoki)はリンキン・パーク(Linkin Park)と共演。
もともとロック的なアプローチをもつ両者のDJ×ロック・バンドによる共演なので、フェロモン出しまくり。
男子による男子のためのEDM×ロックという感じです。
LINKIN PARK x STEVE AOKI – A LIGHT THAT NEVER COMES
では、女の子のためのEDM×ロックといえば?——コールドプレイ(Coldplay)の「A Sky full Of Stars」は、どうでしょう。
彼らの最新アルバム
『Ghost Stories』からのヒット・ナンバーは、アヴィーチー(Avicii)とのコラボで誕生。
その事実はあまり知られていないかもしれません。
夜空に降り注ぐ流星ソニック感が、乙女度マックスです。
Coldplay – A Sky Full Of Stars
Coldplay – A Sky Full Of Stars (from Ghost Stories Live 2014)
そして遂にはEDM×カントリーなどという、とっぴょうしもない新種の交配サウンドまで誕生。
アヴィーチーが自身の最新アルバム
『Stories』で、カントリー界の人気者ザック・ブラウン(Zac Brown)と組んだ曲です。
確かにカントリー曲でもあり、間違いなくEDMでもあるという新体験、どうでしょう?
Avicii – Broken Arrows
EDMがキャリアの起爆剤となることも。
スクリレックスとの交際やカルヴィン・ハリスとの共演を経て、今やEDM界でも大人気のエリー・ゴールディング(Ellie Goulding)が良い例でしょう。
またトラブル続きの私生活で今後が危ぶまれていたジャスティン・ビーバー(Justin Bieber)も、ディプロ(Diplo)&スクリレックスによるジャックU(Jack U)への参加で、ひょんなことからキャリアの巻き返しに成功。
とはいえ、まだ二十歳そこそこなのですが。
Skrillex and Diplo – “Where Are Ü Now” with Justin Bieber
21歳のジャスティンがEDMをやったかと思えば、先日57回目の誕生日を迎えたベテランのマドンナ(Madonna)もEDMをやってます。
最新アルバム『Rebel Heart』には、ディプロやアヴィーチーもプロデューサーとして参加。
テレビ出演の際にはちゃっかりディプロもパフォーマーとして駆り出されています。
Madonna – Bitch I’m Madonna ft. Nicki Minaj
遂に大御所マドンナがEDM界に乗り入れたとなると、次にはどんなポップ・スターが続くのかも興味津々。
EDMフェスのステージに歌姫やロック・スターが立つ日も近いかもしれません。
Text by Hisashi Murakami